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2006年3月 5日 (日)

米・インドの核エネルギー協力合意は核不拡散条約違反

 アメリカのブッシュ大統領が今回の南アジア歴訪の際、インドのシン首相と合意し発表した核エネルギーに関する合意は、核不拡散条約(NPT)に違反する内容だ。NPTは加盟国以外への核技術供与を認めていない。

 世界政治に一番大きな影響力を持つアメリカは、イランや北朝鮮に対してNPTのルールを守らせることについても一番大きな責任を負っている。そのアメリカがルール違反を恣意的に行うというのでは国際秩序の維持が難しくなる(朝日新聞3日付社説参照)。

 それとも、またイラク戦争の時のように「俺がルールだ」というわけか。日本政府も、もし若干でもプライドというものがあるならば、この問題への対応にイラク戦争開戦支持や自衛隊派遣決定のような情けないやり方を繰り返すべきではない。

***   ***

 以下、ご参考までに3月3日(金)14時15分からNHK・BS1で放送された米PBSの「ジム・レーラー・ニューズアワー」の同時通訳音声部分を録音し、手持ち資料にするため書き留めたものを掲載します。

 ジム・レーラー 今日最初は、ブッシュ大統領のインド訪問について、ホールマン記者のレポートです。

 ホールマン アメリカのブッシュ大統領とインドのシン首相が、原子力の協力で合意に達しました。これは世界の2大民主国家の関係が劇的に変わったことを示す出来事です。中立主義とは言いながら、冷戦時代にはソヴィエト連邦寄りだったインドは、急速にアメリカと政治的、経済的パートナーシップを築きつつあります。ブッシュ大統領はこの合意により、両国は国内の政治的反対を乗り越えて、関係強化をめざす意思を示したと述べました。

 「私たちは本日、原子力に関して歴史的な合意に達しました。シン首相にとって簡単なことではなかったと思います。アメリカの大統領にとっても容易なことではありませんでした。これは必要な合意で、両国の国民の役に立つものになります。状況や時代が変われば、指導者も考えを変え、これまで人々が信じていたのとは異なるメッセージを世界に伝えることができることを示しています」(ブッシュ大統領)

 インドは1998年に核実験を行い、これまで一度も核拡散防止条約に加盟してはいません。アメリカや、国際的な原子力協力プロジェクトからも閉め出されてきました。今回の取り決めではインドが軍事用と民生用のプログラムを分け、後に22の原子炉のうち14基に対してIAEA(国際原子力機関)の査察を受け入れることになっています。これと引き替えにインドは、アメリカの原子力技術を利用することができ、増えつつあるエネルギー需要を満たすことが可能になります。

 インドのシン首相はこのように述べています。「ブッシュ大統領に対してインドは、約束通り民生用施設を分離したことをお知らせし、国際原子力機関とインドにとって適切な保障措置の実施について話し合う予定だあるということをお話ししました」

 ウィーンに本部を置くIAEAは、この合意を歓迎しています。エルバラダイ事務局長はこの声明について「核のテロリズムを予防し、原子力の安全性を高めるための核拡散防止体制にとって重要な一歩になる」と述べました。 

 この合意は連邦議会で承認される必要がありますが、反対も予想されます。マサチューセッツ州選出、民主党のマーキー議員は危険な先例を作るものと批判しています。「この合意はNPT体制にとって、災いになります。NPT体制に穴を開けるものだと思います。将来パキスタン、イラン、北朝鮮など核兵器開発を望むどの国に対しても説得力を失ってしまいます。平等に扱っているとか、本当に保障措置があるのだと言えなくなります」

 ブッシュ大統領の訪問に抗議して数千人がデモを行いましたが、政府の対応は温かいものでした。国際的な世論調査機関は、インドにおける大統領の支持率は他のどの国におけるよりも高いと言っています。11億人の人口を抱えるインドは、たいへん魅力的な市場であり、対米貿易はこの5年間で140億ドルから300億ドルに増加しました。しかし、米中貿易の2000億ドルに比べればほんの一握りです。ここからはマーガレット・ウォーナーが伝えます。 

 司会(ウォーナー) アメリカとインドの原子力協力合意と、両国の関係の変化についてお話を伺います。インドの文化と文明、政治学がご専門のインディアナ大学のスミット・ガングリー教授。インドのお生まれですが今はアメリカに帰化されています。カーネギー国際平和財団・拡散防止センターのジョセフ・シリンシオーネ所長。戦略国際問題研究所で国際安全保障プログラムの責任者、カート・キャンベルさん。クリントン政権時代に国防次官補代理を務められました。ガングリー教授、これはインドとアメリカにとって良い合意なんでしょうか。

 ガングリー はい。この取り決めはインドにとってもアメリカにとっても非常に好ましいものであることを疑う余地はほとんど無いと思います。

 司会 どうしてですか。

 ガングリー まず、インド側から見るとインドはエネルギーの需要が非常に大きく、温暖化ガスも非常に大量に排出している国ですから、この取り決めで長期的にエネルギーの安全保障を担保することになります。また温暖化ガスの排出の抑制につながります。さらにはインドの核プログラムのかなりの部分が国際社会の監視下に入ります。そのほか、これが一番重要なことだと思いますが、老朽化が進み、すぐにも改修が必要な設備が近代化できると言うことを意味しているからです。またこれはアメリカにとっても意味のある政策の転換だと思います。30年間の政策では目的を達成することが出来なかったからです。インドの核プログラムを阻止することは出来ませんでしたし、原子力事業の制約すら出来ませんでした。ですから今回の合意は、歓迎すべき政策の転換だと思います。

 司会 シリンシオーネさんはどのようにお考えですか。

 シリンシオーネ この合意が実施されるとNPT(核拡散防止条約)は崩壊するでしょう。ブッシュ大統領は歴代の大統領が30年、40年かけて作り上げてきた枠組みに穴を開けてしまったのです。インドの要求はよくわかっています。彼らは原子力技術を欲しがっているのです。

 司会 民生技術ですか?

 シリンシオーネ はい。アメリカから燃料や原子炉を買いたがっています。これまでこの要求に応えたアメリカの大統領はいませんでした。ニクソンも、レーガンも、ブッシュ元大統領もです。しかしブッシュ現大統領は核兵器は売らないまでも、それ以外の全てを与えてしまったのです。

 司会 なぜこの合意がNPT体制に穴をあけることになるのですか?インドはそもそも加盟もしていません。イランや北朝鮮のように加盟しながら脱退したり、ごまかしたりしたわけではありません。

 シリンシオーネ しかし「協力協定」には調印しました。60年代、70年代に原子炉を手に入れるためです。アメリカとカナダは平和利用を前提として原子炉を提供しましたが、インドはその協定を破り1974年、原子炉からプルトニゥムを抽出して核実験に踏み切ったのです。このようなことが二度と起こらないようNPTの枠組みが出来たのですが、今回ブッシュ大統領はそれをぶち壊してしまいました。

 司会 キャンベルさんはどう思われますか?

 キャンベル 明らかに不完全な合意です。それは疑いありません。しかし、合意した以上、受け入れるしかないでしょう。タイミング的にもまずかったですね。今後イランに圧力をかけなければならないときに、誤ったメッセージを与えると思います。今後50年間アメリカにとって最も重要な国はインドになるでしょうから、合意を取り消すことは両国の関係にとりかえしのつかないダメージを与える可能性があります。

司会 ガングリー教授、シニシオーネさんが仰るとおり「悪いことをしたインドに、褒美をあたえる」ようなことにならないのですか?NPTの国際的枠組みを損なうという意見をどう思われますか?

 ガングリー 私はもちろん、先ほどの方とは異なる意見を持っています。インドがNPT(核不拡散条約)の締約国でないということは重要な点だと思います。1968年に18の国が集まって軍縮会議を行い、これが最終的にNPTにつながっていたったわけですが、インドはその当時から「大国のエゴ」(への反対)と原則論を根拠としてこの体制に反対してきたのです。自国の安全保障を懸念し、不平等条約は受け入れられないと主張したんです。

 司会 シリンシオーネさんは、インドが西側諸国をだまして民生用の原子炉を手に入れたとおっしゃっていますが、どのように思われますか?

 ガングリー はっきり申し上げて、シリンシオーネさんの話は大げさだと思います。カナダが提供した原子炉で、そこで作られたブルトニウムが、本来の目的以外の目的で一部使用されたということはありましたが、その一方で、両国の合意文書にはインドがあの原子炉からの使用済み核燃料を取り出してはならないという条項は無かったんです。合意の精神には反していたかもしれませんが、文言には反していません。

 シリンシオーネ それは馬鹿げた考えです。ニクソン大統領はインドがしたようなことを再び許さないという法案を議会に提出して承認されました。それをいまブッシュ大統領は踏みにじっているのです。大統領は、インドの核開発を助けることを禁じているNPTを破っただけではありません。アメリカの5つか6つの国内法も改正せざるを得なくなります。

 司会 あとでもっと幅広い観点から議論したいんですが、先ほどの国際的な体制に穴が開くとおっしゃった点ですけれども、インドは軍事用と民生用を分けて、原子炉の3分の2に対して査察を受け入れることになるわけですよね。

 シリンシオーネ それはつまり3分の1の原子炉は査察を受けないということで、それは問題です。今回の合意の意味はインドの核兵器製造能力が年間2倍、3倍になることではないでしょうか。現在年間6個から10個作る能力がありますが、アメリカからの燃料が民生用の原子炉で使われるなら、それを軍事目的に転用し、核兵器製造能力を3倍にすることも可能です。そうなると、パキスタンはじっとしていないでしょう。中国や日本はどうでしょうか。アジア地域にとっても、ブッシュ政権にとっても問題です。

 司会 キャンベルさん、この合意は何を象徴しているのでしょうか。単に核の意味にとどまらないとおっしゃっていましたが、どういう意味ですか?

 キャンベル そうは言っても、原子力合意が今回のインド訪問の主な目的です。今後しばらく賛否両論うずまくでしょうが。 そのほかにも宗教指導者や政治家、財界人との会食があって、インドからのマンゴーの輸入を17年ぶりに再開する合意も成立しました。

 司会 マンゴージュースで乾杯していましたね。

 キャンベル そして、両国が意識しているのが中国です。アメリカ政府、インド政府の行動の背後には中国の存在があります。両国とも中国を「敵」とみなしているわけではありませんが、今後おもな競争相手になっていくと見ています。中国と協力できる分野もあるでしょう。そしてアメリカとインドが手を組めば、中国とよりよく協力できるという確信が、アメリカ・インド両国にあると思います。それが両国の関係強化を後押ししているんです。

 司会 ガングリー教授、これがインドやインドの対米姿勢においてどの程度大きな変化だと思いますか?また中国の存在をどの程度意識しているのでしょうか。

 ガングリー これはまさに、インドのアメリカに対する姿勢がいかに劇的に変化したかを示す出来事だと思います。実はシン首相のこの決定には、インドの科学界がかなり強く反対していたんです。「インドはアメリカに身売りをするようなものだ」と。そういう反対です。原子炉の3分の2を国際社会の監視下に置くということで合意をしているからです。しかし、もっと核心的な問題に戻って考えたいと思います。それはつまり、インドとアメリカとの関係改善という点なんですけれども、まさにこれは大々的な変化だと思います。インドのアメリカに対する姿勢が大きく変わったのです。

 そしてキャンベルさんが正しく指摘された通り、この問題では中国の存在も影響したと思います。インドもアメリカも中国がただちに脅威になるとは考えていません。しかし、それでもやはり両国は中国の軍事力、経済力の増大ぶりと、そして将来それがどのように行使されるのだろうかということについては、ある種の懸念を抱いています。その結果としてアメリカとインドは中国というアジアにおける新たな巨大な動物について、協議をせざるを得なかったと言えると思います。

 司会 これは中国に対抗するという面で、どれくらい重要なことなんでしょうか。あなたは合意に反対をしていますけれども、もっと広い視点で見るとどういうことになりますか。

 シリンシオーネ インドとアメリカの関係が急激に変わったきっかけは、2000年のクリントン大統領の訪問でした。まるで王様のようなもてなしを受け、抗議デモもありませんでした。しかし、それでもアメリカの原則を変えることはありませんでした。ところが中国の脅威が高まる中、一部のネオコンが、むしろインドの核を強化して中国に対する抑止力にしようと考えました。インドを中国に対抗するアメリカの同盟国にしようと、今回の合意のひな型を作ったのです。

 司会 キャンベルさん、アメリカはこの合意から何を得るんでしょうか。そのうち何割くらいが、経済やビジネス上の利益なんでしょうか。

 キャンベル 先ほどのリポートにもありましたが、アメリカとの貿易、アメリカからの直接投資は増えましたけれども、まだ十分ではありません。特に中国に対する貿易や投資に比べて少ないです。ですから、今回の合意をきっかけにインドとアメリカの間で、エネルギー全般やソフトウェアーの分野での協力が強まることを期待します。 また今回の合意は、アメリカにとって未来に関するものですが、インドにとっては過去に関するものでもあります。つまり、アメリカはこれまでインドに十分敬意を払ってこなかったという気持ちがインドにはあります。それを今後乗り越えていくという点が大きな意味を持ちます。次にインドと会談するとき、彼らの態度は大きく変化しているでしょう。アメリカに対する不信感が和らぎ、協力的になっているでしょう。 防衛面での協力もあり得ると思います。

 司会 それはすでに強化されていますよね。

 キャンベル しかしこの合意をもっと完全なものにするためには、さまざまな分野でインドの協力が必要でしょう。国境を越える問題、核拡散防止の問題などでインドの協力が得られれば、合意は価値あるものになるでしょう。 全般的には懸念の多い合意ですが、こうなった以上、前進するしかありません。今後の展開によっては、インドがアメリカにとって前例のない重要なパートナーになる可能性があります。

 司会 ガングリー教授、インドはもっと幅広いパートナーシップを目指しているんでしょうか。そして、やがてアメリカの小売業界にも市場を開くと思いますか?

 ガングリー インドはアメリカとの間でより広範な関係の強化を求めていることは明らかだと思います。アメリカと聞くだけで拒否反応を起こしていた、そういう嫌悪感といったものとは決別したと思います。もちろんブッシュ大統領の訪問中に一部でまだそのような反応が出たことはありました。しかし、そういう人たちはかなり減ってきていると思います。 また小売業界の開放はたしかにアメリカが求め、インドがまだ抵抗していますが、民主国家ですから有権者の声が結局はものごとを決めます。政治家も政治的に微妙な問題については慎重に対応せざるを得ませんね。しかしインドはその点でも一歩前に出ています。個別の小売り産業について市場参入の許可を出していますからね。これからは大手の企業、スーパーなどにどう参入を許していくかということが問題になると思います。

 司会 ウォルマートとかKマートとですね。

 ガングリー そうです。

 司会 これからの見通しはどうなんでしょうか。なぜ原子力の協定が必要だったんでしょうか。これからどうなりますか?

 シリンシオーネ 今回の合意によって、アメリカの核拡散防止法が4つから6つ改正しなければならなくなります。それには議会の承認が必要で、何年もかかるでしょう。今年は何も変わりません。白熱した公聴会が行われるでしょうが、上院外交委員会のルーガー委員長からも、下院外交委員会のハイド委員長からも懸念する声が出ています。ですから合意が承認されるまでに解決されなければならない問題がたくさんあります。

 司会 キャンベルさん、激しい論争になりますか?

 キャンベル 二つのことに注目すべきです。まず久しぶりに両党からホワイトハウスの政策に対する強い反対の声が上がっています。今回の合意もその一つとなるでしょう。第二に、インドはプライドの高い、時に扱いにくい国ですから、今後アメリカ議会とホワイトハウスの間で、この合意を巡って激しい駆け引きが行われるのを快く思わないでしょう。ですから私もシニシオーネさんのように、今後の成り行きを見守りたいと思います。今後数年間、そうスムーズにことは運ばないでしょうから。

 司会 みなさんどうもありがとうございました。

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