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2007年11月15日 (木)

衆参「ねじれ」現象に関する一考察=選挙によらない性急な「解消」より積極的な側面に目を=

はじめに

 最近、福田総理が民主党の小沢一郎代表との党首会談で、いわゆる「大連立」提案し、それを党に持ち帰った小沢代表が、党内の賛成を得られずにいったんは「辞意」を表明するという騒動がありました。これはそもそも、衆議院では自民党・公明党の連立与党が3分の2の議席をもっている一方で、参議院では与党が過半数割れを起こしているという、いわゆる「ねじれ現象」を解消することを目的とした動きです。

 ここでは、そのいわゆる「ねじれ現象」について、そのことが持つ意味、諸外国や過去の事例と比べてどうかといった点、また、この「現象」は果たしてただ「困ったこと」なのか、それとも積極的な側面にも光を当てるべきなのかについて少しお話ししたいと思います。

1.「ねじれ」諸外国の例 =大統領制= 

 「ねじれ」といってすぐ思い浮かぶのは、共和党のブッシュ大統領が行政府を押さえる一方で、上院は僅差とはいえ、昨年の中間選挙で「野党」民主党が上下両院を制したアメリカの例です。民主党が「野党」と申し上げましたが、かなりの程度厳密な「三権分立」の制度をとっているアメリカでは、「法律」や「予算」はあくまでも「議会」が作るものなので、「議会では民主党が与党」と言った方がより正確なのかも知れません。

 もちろん、予算も法律も議会が権限を持つと言っても、大統領には憲法上「拒否権」が付与されており、例えば「イラク撤退法案」とか、「イラク駐留予算を含まない補正予算」といったものを議会が可決しても、大統領は拒否権で対抗できるので、「大統領が拒否権を行使した」「それに対して、議会は少し内容を変えた補正予算をもう一回議決した」「大統領がまた拒否権行使」といった応酬が起こるわけです。

 大統領の姿勢が頑なな時は、議会が折れない限りそれがエンドレスに続いてしまうことになり、議会民主党指導部としては、有権者から「統治能力」を疑われないためにも、また時にはアメリカが国際社会に負っている責任といった観点から、ある程度のところで妥協しなければなりません。

 私は、今のアメリカ議会のペロシ議長以下の民主党指導部は、いいところで妥協していると思いますが、しかし、「妥協」は今度、民主党支持層の中の強硬派といいますか、左派といいますか、そういう勢力の反発や失望を招くことも避けられず、現に、世論調査ではいまのアメリカ議会に対する支持率は、ブッシュ大統領の支持率とどっこいどっこいの低支持率になっています。

 さらに、アメリカの場合は議員の独立性が強く、例えばブッシュ大統領は移民規制については、やや移民に対して柔軟な法案を、民主党リベラル派のエドワード・ケネディー上院議員らと一緒になって作って推進しようとしたものの、民主・共和両党の強硬派の抵抗にあって法案成立に失敗しました。つまり、「大統領府と議会のねじれ」以前に、議会内の「まだら模様」で話しはより複雑なわけです。

 やはりよく知られるように、フランスにおいても大統領と議会多数派の「ねじれ」はしばしば起こります。社会党のミッテラン大統領の下で、保守系のシラク首相の内閣が国政を担当したり、逆に保守のシラク大統領の下で、社会党のジョスパン政権が国政を担当するという姿をわれわれは見てきました。

 ただし、フランスの場合は、アメリカのように「むずかしい」「ねじれている」という風にはなりません。これは、フランスの大統領は外交・安全保障を統括するものの、憲法上の議会に対する立場はアメリカのように強力なものではなく、内政については事実上、内閣と議会に権限があるという制度上の違いがあるからだそうです。政治学者によっては、「フランスの大統領制は、事実上、議院内閣制に近い」という言い方をする人もあるようです。

 ドイツやイタリアにも大統領がいるわけですが、それぞれ憲法上の権限はフランス大統領よりも弱く、しかも直接選挙ではなくて、国民議会や下院に比べて権限の弱い「上院」が選出するということもあって、「ねじれ」が起こることが少ない上に、「ねじれ」が起きても問題は小さいわけです。

2.「ねじれ」諸外国の例 =国連、議院内閣制=

 国連も「ねじれ」の例として挙げられるかも知れません。国連の意思決定機関は総会ですが、よく知られる通り、安全保障に関わる問題については安全保障理事会が絶大な権限を持っているので、ここにねじれ現象が生じることがあります。

 そもそも、国連が出来た時からの「パレスチナ」「イスラエル」問題について、総会は「イスラエルの1967年の占領地から撤退」を決議しているのに、安保理で拒否権を持つアメリカがイスラエル寄りの姿勢を貫いて実力行使を阻んでいるため、問題は結局未解決のままであり、世界の最大の不安定要因でありつづけています。

 国会の多数派が内閣を構成する「議院内閣制」の国々では、ねじれといったことが問題になることはめったにありません。そもそも、ねじれがおこらないように内閣を構成することが基本だからです。

 ただし、同じ大統領制でもアメリカとフランスで、それぞれの大統領の憲法上の権限の違いによって「ねじれ」が起こったときの「こじれ方」が違うように、議院内閣制の国々おいても、例えば憲法上の「第二院」の第一院に対する権限の強弱によって状況は大きく異なってくることがわかると思います。

 端的に言って、日本国憲法においては、予算や首班指名については衆院の優越が定められているものの、「一般の法案について参議院の権限が極めて強い」ということが国際比較の上で言えるわけです。もちろん、このルールで60年やってきて、7月の選挙もそのルールに則って民意が示されたわけですから、今になって急に「参議院の権限が強すぎる」と言い始めるのはフェアーではないかもしれません。しかし、日本国憲法の制定過程を見ても、GHQが示した憲法「草案」は一院制だったにも関わらず、日本政府・国会が今の制度をバタバタと決めたいきさつがあり、よりよい制度設計について考えることは、国会にとっていつでも検討課題であるということは言えると思います。

3.「ねじれ」を活かす

 「大連立」が自民党にとって都合がいいというのは事実でしょう。しかし、本来は「民意の反映を第一義に政策協議を積み重ねて内閣を構成することで、結果としてねじれを生じないようにする」というのがスジで、「今の権力を握り続けるために」「いまのやり方や政策を変えないために」ということを優先して、ねじれの方をむりやりに解消してしまうというのは、「国民の選択」と「議会政治」のフィードバックを考えたときには本末転倒と言わなければならないと思います。

 これは私自身の考えであり、皆さんそれぞれのお考えがあるかも知れませんが、私はまず、政府・与党が予算や法案を作るときに、参議院の構成という「現実」を出発点に、できるだけ提出前に「自公連立与党」以外の党派の意見をいろいろな方法で聞いて、あらかじめ歩み寄ったものにして出すということが必要ではないかと思います。選挙向けのパフォーマンスという点からは、別の考え方があるのかもしれませんが、「現実主義」に立って国民のための政策を実現するにはそれしか方法がないでしょう。

 さらに、政策協議と称して一部の党派とだけ密室協議するやり方よりも、国会審議の場でオープンな主張のぶつけ合い、妥協を図っていくということが必要であり、有意義になってくるのではないでしょうか。

 これまでの政策決定過程は、与党の党内審議で、各省庁とのすりあわせや民意の反映は一応終わったものとし、国会に提出された予算や法案は「行政府と与党の完成した共同作品」であるという仮定の下に、国会は言ってみればその完成品を認めるか、認めないかスタンプを押す、というだけの作業になっていると言うことができるかもしれません。

 日本国憲法の制定過程で、芦田小委員長の下、委員の腹蔵ないやりとりで条文が練られていったように、「国会」が予算や法律を平場で練り上げていく。危なっかしいと思う人はいるかもしれませんし、特に国会や政治家をコントロール下においておきたいお役人たちは「絶対に勘弁してくれ」ということかもしれませんが、私は書生論かもしれないけれども、議会制民主主義とは本来そういうものではないかと考えるわけです。

しめくくり

 安倍前首相の当事者能力の欠如が招いた参院選大惨敗により、今日の状況が生まれたわけですが、いわゆる「ねじれ」は、「大連立」といったことで無理やり解消すべき困った事態ではなく、国会審議の活性化による民主政治発展のチャンスだという側面があるのではないか。いささか突飛かも知れませんが、そんなことを思う今日この頃であります。

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