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2009年3月 9日 (月)

【切貼】中谷巌氏、転向の弁(2009年3月9日付「毎日新聞」朝刊)

「何をいまさら」「今度は転向で本を売って儲けるつもりか」というご批判もあるかと思うが、そこは雲南の山賊の親玉を何度も許した諸葛孔明の寛容を見習って、いよいよわが陣営の陣容を厚くすることが賢明だろう。

以下、毎日新聞2009年3月9日付の記事の切り貼り。

語る:中谷巌さん 『資本主義はなぜ自壊したのか』を刊行

 ◇改革の副作用を懺悔した後に
 経済学者、中谷巌さんの『資本主義はなぜ自壊したのか』(集英社インターナショナル、1785円)が話題だ。アメリカ流の経済学を武器に構造改革を推進した中谷さんによる「懺悔(ざんげ)の書」。格差拡大など改革の副作用を分析して、日本経済再建の方向性をも示している。【鈴木英生】

 新自由主義=市場原理主義は今、金融危機、あるいは格差拡大や地球環境破壊の元凶として批判されている。本書も、新自由主義を放置すれば日本社会が棄損されると警告している。だが中谷さんは元々、新自由主義を日本に持ち込もうとした一人でもあった。

 1969年から米ハーバード大に留学した。<第一印象は「素晴らしい」の一語だった>。新古典派と呼ばれる経済学に心酔し、同国の豊かさをその理論の結果と信じた。

 「米国経済学の世界観は『マーケット』と『民主的政府』の2本の柱でできている。マーケットは資源配分を参加者の民主的なお金による『投票』で決める仕組み。他方、環境や格差拡大などマーケットで解決できない問題は、民主的投票で選ばれた政治家が政府を動かし、問題解決にあたる。経済と政治の両面で民主主義が貫徹すれば、社会は進歩してゆくとされています」

 帰国後、この考え方に基づいて日本社会の既得権打破、規制撤廃、市場の活性化を訴え続けた。90年代に入って細川内閣、小渕内閣で首相諮問機関の委員になり、小渕内閣の「経済戦略会議」の提言は小泉内閣に引き継がれた。だが、本人が米国流経済学から距離を置くきっかけは、このころの首相官邸通いにあった。

 「現場で、政治家や官僚の猛烈な利害調整のせめぎ合いに直面しました。米国経済学の世界観とは相いれない世界が、ここには厳然と存在していました。米国の経済学は、完ぺきに自己完結する世界を作っています。しかし、その外に広がる現実の社会は、しばしば合理的には説明できない不条理な世界であり、経済学の論理だけでは論じ切れないと思うようになりました。歴史や文化、宗教などもきちんと勉強したいと思い始めました」

 こうした勉強を続けるうちに、「やはり、経済学的世界観だけで政策を作るのは危ないと改めて思うようになりました。なぜなら、マーケットと民主政治に任せれば自然に良い社会が作られるという考え方では、日本社会がおかしくなってゆくと感じるようになったからです」。<人心の荒廃や、貧富の差の拡大は、(略)グローバル資本主義やマーケット至上主義そのものにビルト・インされたものではないか>という疑問が生まれたのだ。

 この疑問は、市場経済を限定的にしか導入していないキューバやブータンを訪れて再確認した。「両国とも貧乏ですが、人々は非常に穏やかで明るく見えた。もっと高所得国でも、貧困層は多くの場合、心が荒(すさ)んでいる。これは市場経済の副作用ではないのか」

 もちろん、日本が両国のようになれるわけもなく、市場経済を全面的に拒否すべきでもない。ただ、「日本がどんな国で日本人はどんな生活をしてきたかを考え、その価値観に合った市場の使い方をすべき」だと考えるようになった。

 本書は、日本の特徴を<世界でも類を見ない平等主義的な社会>だったことに見る。だから、目先の金融危機克服以上に<貧困層の底上げ、所得格差の是正によって、日本という「国のかたち」を整え直すこと>の必要性が導かれる。

 ここから、経済学者としての面目躍如の議論を展開する。「還付金付き消費税」の提言だ。まず、福祉目的で消費税を20%まで引き上げる。この時、年間消費200万円の世帯の消費税負担は40万円となるが、貧困世帯には、<毎年四〇万円ずつ還付する>仕組み。こうすれば、この世帯の実質税負担はゼロとなり、それ以下の年収の世帯は、むしろ還付金の方が多くなる。「日本の平等的な社会が欧米のように階級的に分断されたら、この国にはなんの強さも残らない」

 「改革のすべてが悪かったとは思いません。ただし、マーケットは万能ではない。使い方を間違えれば副作用が噴出する。私の主張は、配慮が足りなかったと認めざるを得ないのです」

 ◇マルクスの分析を評価
 <人間は仕事から疎外されたのである。資本主義社会における「人心の荒廃」はこのあたりに根源的な原因がある(略)><エリートたちが上手に一般大衆を支配し、搾取することが可能な、もっともらしい制度や仕組み、ルールを作ること、それこそ階級社会におけるエリートたちの暗黙の思惑(略)>。本書には、初期マルクスやレーニンが書きそうな言葉がある。経済学の中で最もマルクスと遠いはずの新古典派だが、「マルクスの資本主義分析には、正直なところ、学ぶべきものがあります」と中谷さん。最近、貧困問題に絡んでマルクス経済学の入門書が次々に刊行されている。この事実と合わせて考えると、中谷さんの発言は、更に重く感じられる。=「語る」は随時掲載します。

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 ■人物略歴

 ◇なかたに・いわお
 三菱UFJリサーチ&コンサルティング理事長。1942年生まれ。米ハーバード大博士号取得。一橋大教授など歴任。細川内閣で経済改革研究会委員、小渕内閣で経済戦略会議議長代理。著書に『入門マクロ経済学』など。

毎日新聞 2009年3月9日 東京朝刊

【以上、切貼】

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