2008年5月18日 (日)

堤未果『ルポ貧困大国アメリカ』(岩波新書) =”読むべき”ベストセラー=

手に入りやすいコンパクトな本でありながら、アメリカ社会の知られるべき一面を良く整理して教えてくれる良書。すでにベストセラーになっているが、いろいろな国の事情に少しでも通じておきたい人にとって、アメリカについては真っ先に読むべき本だと思う。

アメリカは徴兵制ではないのに、イラク戦争などを戦う兵員の確保が可能なのはどうしてか。それは、所得格差が大きく、軍隊の給料でもそれまでの年収の2倍になるという若者がたくさんいて、軍に入れば大学進学が可能になるという話が流布されているからだ。

堤未果さんの「ルポ貧困大国アメリカ」は、そうしたことも含め、アメリカ、の経済社会の実際の姿をケースを通じ身近なものとして理解させてくれる。森田もこれまでは「軍に入れば大学に行ける」という話を鵜呑みにしていたが、それすら詐欺まがいの話であることをこの本を読んで知った。

「借金が返せるいい仕事がある」と民間軍事会社によってイラクに送り込まれた中年アメリカ人男性が、劣化ウラン弾か何かの放射線障害らしきものに苦しみ、酷い目にだけあって帰国後も苦しんでいる話など、本当に酷い話だと思う。同じような立場で現地で戦闘により死亡した人々も多いのに、これは戦死にカウントされない。こういったことについても、アメリカの本当の姿として知られるべきだ。

格差と食生活の連関など、ABCの『ナイトライン』などを見ているような人には常識となっている話題が多いと言えるかも知れないが、とにかく高校生や大学生にはぜひ読んでみてほしい本だ。自民党の小泉・竹中「構造改革路線」はアメリカ礼賛路線と言えるが、こうした路線で企業「競争力」だけを追求する路線が何をもたらすか想像してみるべきと思う。

ベストセラーに読むべき本は実に少ない。最近の『女性の品格』といった頂き物大好きの元官僚が書いた一種の「盗作本」のことなどが話題に上ると、高校生の頃読んだバートランド・ラッセルの『幸福論』に今のベストセラーに後年読み継がれる本は全くないので、そんな本は読まずに古典を読むべきだという話が書いてあったことを思い出す。しかし、この『ルポ貧困大国アメリカ』は全く例外だ。大きな本屋のベストセラーコーナーに下らない本と一緒に並んでいてもどうか敬遠されずにお読み下さい。

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2008年5月10日 (土)

「フリーチベット!」より、日本企業による人権侵害=外国人研修・実習 不正=を糺すべき

「フリーチベット」を叫ぶ人々を見て、人権問題に関心を持ち、行動する若い人々がたくさんいることを知り、たいへん結構なことだと思う。

こういう人々には、外国の政府がやっている人権侵害を安全地帯から批判するだけではなく、ぜひ自国の企業がやっている、また自国の政治・行政がそうした行為を事実上作り出したり、放置している「外国人研修・実習の不正」といった問題にも目を向け、行動してほしい。

その辺が、本当に「人権」に関心があるのか、ただ安倍晋三たちのように外国の悪口を言って劣情を満たし、あるいは「右」の世論に阿って政治基盤を拡大しようとしているだけなのかのリトマス試験紙になるだろう。

チベットの人権について、人類社会の一員として発言し、行動することはよいことだ。しかし、それ以前に、日本企業が行っている、また日本政府がそれを事実上手助けしている問題については、日本国の主権者である日本国民は、直接に責任を負っているからである。

こうした人権侵害を放置しているのは日本の恥だ。外国人労働者の処遇問題は、経済がらみで自己の利害にはねかえってくる可能性があるからと目をそらし、自分は何の痛みも感じない「フリーチベット」にのみ狂奔するのは、愚かなだけでなく、卑怯だ。

【以下はNHKニュース原稿貼り付け】

外国人研修・実習 不正が急増

5月10日 6時32分
法務省は、外国人が日本の技術を学ぶ「外国人研修・実習制度」で、研修生らを不当に安い賃金で働かせるなどの不正行為があったとして、去年1年間で前の年のおよそ2倍の449の企業や団体に処分を行いました。

「外国人研修・実習制度」は、平成5年に、日本の技術や技能を発展途上国などへ移転するために設けられましたが、安い労働力を確保する手段として使う企業があとを絶たず、法務省入国管理局は、企業への立ち入り調査を増やすなど指導を強化しました。法務省のまとめによりますと、その結果、去年1年間に不正行為があったとして処分を受けたのは449の企業や団体に上り、前の年のおよそ2倍に増え、過去最高となりました。このうち、残業の割増賃金を支払わないなど不当に安い賃金で働かせていた企業などが175と最も多かったほか、中には、研修生らが逃げ出すのを防ぐためにパスポートや預金通帳を強制的に取り上げるなど、悪質な人権侵害に当たるケースもあったということです。政府は、現在の制度には問題が多いとして来年までに見直すことにしていますが、法務省は「制度の見直しと並行して、企業側に対する指導もさらに強化していきたい」と話しています。【NHK】

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2006年10月 3日 (火)

経済財政諮問会議では、八代氏の雇用労働政策が特に要警戒~「きょうも歩く」より

「きょうも歩く」の黒川氏が、経済財政諮問会議では、とりわけ八代尚宏氏の雇用・労働政策に警戒が必要という指摘をしている。

これまでもオリックスの宮内氏が率いた規制改革会議の下で、雇用の「市場化」ということだけを訴えてきた由である。要注目の論点提示だと思う。

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2006年9月 4日 (月)

「自動車を輸出して、ぜいたくブランド品を輸入」でいいか?~寺島実郎氏のNHKラジオ「ビジネス展望」での発言

2週間ほど前の、寺島実郎氏のラジオでの発言に共感する。自民党総裁選で、このような大事な議論が全くなされていないことに大いに不満を感じる。以下は放送録音を森田がメモ化。

「貿易構造の変化に見る日本産業の実像」
財団法人日本総合研究所理事長 寺 島 実 郎
(2006年8月18日、NHKラジオ「ラジオ朝いちばん」~ビジネス展望~)

 寺 島 日本産業の自画像ということを申し上げたいんですが「日本という国はどうやって生活してるんだ」、「どうやってお金を稼いで、どうやって使っているんだ」ということをもう一回冷静に考えてみようということなんです。
 かつて大阪万博の頃までは、よく経済白書なんかにも「国際収支の天井」なんていう表現が出てきてまして、どういうことかというと「外からお金を稼ぐ力、つまり輸出力がないから、買いたいものも買えない」という時期が続いてたんですね。
 ところが日本産業大きく変わってきていてですね、昨年の貿易統計の数字を見ていて、実に考えさせられることが多いんですね。
 まず、日本産業いったい「何で稼いでいるのか」ということなんですが、昨年「輸出66兆円」ということになっているんですが、1位、稼ぎ頭が「自動車産業」ですね。2位が「半導体等電子部品」、3位が「鉄鋼」、4位が「自動車部品」、5位が「化学光学機器」という、この五つの品目で日本は輸出の35パーセントを支えているんですね。
 特に、30年近くも輸出のトップ品目を占めてきているのが「自動車産業」なんですね。「自動車」と「自動車部品」で日本の輸出の2割を支えていると。
 実は、昨年の日本の自動車メーカーは国内で1,080万台生産してですね、海外で1,060万台と、ほぼ海外生産が国内生産の台数と肩を並べたんですね。
 にもかかわらず、あいかわらず輸出のトップを支え続けているということは、輸出している車の中味が変わってきててですね、高級車だとか、ハイブリッドカーだとかですね、1台で多くの外貨を稼げるような自動車の輸出に切り替えてきているからなんですね。
 いずれにしましても、そういう産業力を蓄積することによって、66兆円の輸出力=外から稼ぐ力を持っているから、こんどは「輸入できる力がある」というわけです。
 それでは「何を日本は輸入してるんだ」というと、昨年は「57兆円」輸入しているわけなんですけれども、よく言われるように「エネルギーと食料」をですね、外から買って、それに「原材料」を買って経済を成り立たせている国ということになっているんですけれども、「エネルギー」が日本の輸入の25パーセント、「食料」が10パーセントで、このふたつで35パーセントの輸入をしているということなんてすね。
 ところが、去年起こった出来ごとの中で、非常に注目すべきだと思うのが、この何年かの傾向でもあるんですけれども、着るもの「衣料品」が、輸入の9分類品目の「第2位」になってきてるんですね。
 これはどういう意味かっていうと、もちろん近隣のアジアからの比較的安い下着とかそういうものの輸入も含まれているのですが、大きく伸びている理由は実は「ファッション」なんですね。つまり、欧米の「ブランド商品」なんです。
 調べ直してみると、衣料品に「バッグ」だとか「靴」などの履き物、「時計」、宝石のような「貴金属」を合わせると、去年日本は「4兆5,000億円」、海外から輸入しているわけです。要するに、昔のことばで言えば「ぜいたく品」と言えるようなものですね。 ブランド商品というのは、それなりに魅力があることは僕もよくわかるわけですが、とにかく「ブランド商品を外からどんどん、どんどん輸入するような国」になっているという数字がはっきり出てくるわけです。
 要するに「外から稼ぐ力を利用して、エネルギーと食料を外部に依存して、加えていよいよファッション性のあるブランド商品のようなものを海外から輸入している国」、そういう自画像になってきたわけですね。
 一家の家計のイメージで言えば、自動車産業に象徴されるような「外から稼ぐ力のあるお父さん」が活躍しているもんだから、それに依存して、生活の基盤であるエネルギーと食料をどんどん海外に依存してですね、さらに加えていよいよ、生活そのものに関わるわけではない、より付加価値の高いブランド商品なんかを買うようになっていることが確認できるわけなんです。
 ひとことで言うと、産業構造の歪みとまでは言いませんけれども、せっかく「外から稼ぎ出す力」というものを、「産業力」、「技術力」という形で持ちながら、それを「本当にうまくこの国は使っているのかなあ」という問題意識がでてくるんですね。
 例えば今後の方向として「産業力を活かして、産業構造の危うさに対応する」路線といったものが僕は今後必要になるんじゃないかと思うわけです。
 「エネルギーと食料」も、欧米の先進国と比べて、日本くらい外の国に依存する危うい構造になっている国は少ないわけですね。
 食糧なんかでも、アメリカはもちろん100パーセントどころじゃない、食糧の最大の輸出国ですし、「日本の食料自給率はカロリーベースで40パーセント程度」といわれてますけれども、欧州の主要国はことごとく食糧自給率100パーセント以上ですので、そういうことを考えると、日本の「技術」を活かして、問題を解決していくような方向っていうものが重要になってくるだろう。
 たとえば、いま話題になってきている「バイオ燃料」っていう世界があるんですけれども、要するに「植物からとったエネルギー源を、より活かしていこう」という考え方なんですけれども、これは「エネルギーの中東に対する依存度が極端に高い」というのが「日本の危うさ」の原因の一つだということに対応することになる。
 「食糧の自給率が極端に低い」ということが日本の危うさの原因であることについて、例えば日本の技術力で、再生可能なバイオ、植物を使って農業を活かしてですね、エネルギーを生み出して、それで海外に対するエネルギーの依存なども解決していく。
 つまり日本にとってやはり「虎の子」は「技術力」なんですね。産業を今日のような形にまで育ててきた。そういうものを活かして問題を解決していく力が、産業構造の歪みを考えたときには必要だなあと思います。
 もう一つは、変な言い方ですけれども「がまんのシナリオ」といいますか、さっきの「ぜいたく品」の話しじゃないですけれども、ファッションも大事なことだし、「豊かな生活」のためにはブランドも意味のあることだとは思うけれども、やはり「産業力」が結局そういう形にだけ使われていっているということであれば、非常に「空しさ」もあるわけですね。
 ですから「日本産業のあり方」というものを、よく考え直すべきだと僕は思います。ここ5年くらいですか、「金融」というか「マネーゲーム」的な議論ですね、昨今でいえば「村上ファンドだ」、「やれホリエモンだ」なんて格好の話しにだけ、血道を上げている風情が日本の場合ありますけれども、やっぱり「産業」なんですね、この国の重要な課題は。「どうやって日本の産業力というものを活かし、育てていくか」ということに、真剣な問題意識がなければ、生活の「基盤」そのものを見失っていく、そんな気がしてならないです。
 アナウンサー お話伺いながら、国内で「経済格差」が広がっている、その背景に雇用の問題、非正規雇用といった問題がある。ブランド品が、ある意味では寺島さんも言われるように悪いことではないでしょうけれども、格差が広がって「お金持ちはブランド品に向かう」と。この「格差の広がりと産業力の連関」についても、産業の歪みというところで非常に考えさせられるところですね。
 寺 島 まったくその通りだと思います。  

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2006年7月16日 (日)

7/22(土)~28(金)ドキュメンタリー映画秀作『三池-終わらない炭坑(やま)の物語』期間限定ロードショー

2月10日付の当ブログに感想を書いた熊谷博子監督の『三池-終わらない炭坑(やま)の物語』がポレポレ東中野(3371-0088)にて一日四回上映されます。

アメリカでは5月末からゴア前副大統領=民主党2000年大統領候補=が制作した地球環境問題のドキュメンタリーがヒットしているということですが、「9.11の逆上」だの、「小泉郵政解散の催眠術」だのから目を覚まし、「いま」を考えるべき時に、再度お勧めしたいと思います。

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2006年2月10日 (金)

映画『三池~終わらない炭坑(やま)の物語』

 試写会(1/20中野ZERO)を見た。森田は昭和35年生まれなので「三池争議」の記憶はなく、労働争議史上、また日本の政治史上の大事件だったというおぼろげな知識があるだけだ。熊谷博子監督のこの映画は、数年がかりのインタビューを中心に、三池争議の姿を浮かび上がらせる。「40年あまり」という時はインタビュー収集にとってよいタイミングのようだ。「もう話してもいいだろう」という気分になる人も多く、これ以上時が経てば亡くなってしまう人の方が多くなる。

 この映画は、政治学の副教材として好適だ。「第2組合」というものがどのような力学、当事者の認識から生まれてくるのか。そして「政治とカネ」の入門編。切り崩しに「お金は使いましたか」という熊谷監督の問いに「会合の飲食代程度は」という率直な証言。婦人を組織することで一気に盛り上がった運動が、時間が経過することで「家計を切り盛りする」だけに奥さん達から少しづつ切り崩される。その現場となった食堂経営者夫婦の証言が生々しいが、さらに組合の資金担当により攻防両者の資金についてマクロ的な概要が示される。

 扱われるのは「現代史」だが、「現代」を考える契機を与えている。圧倒的な素材に対し、交通整理がもう一つという印象があり、音楽が少し貧しいのが残念だが、政治、政治学に関心ある方には一見をお薦めしたい。4月1日からポレポレ東中野(電話03-3371-0088)でモーニングロードショー、問い合わせは「シグロ」(電話03-5343-3101)。

 

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2006年1月25日 (水)

「格差拡大は見せかけだけ」という政権の操作的発信

 内閣府が「格差拡大は見せかけ」との見解を出し、小泉総理もその線で国会答弁などを続けていますが、これはおかしいと感じた人が多いと思います。昨日のNHKラジオ第一放送の内橋克人氏の発言を、自分用に字にして見ました。ご参考までに紹介したいと思います。

 以下は放送を録音して字にしたもの、文責・森田です。

 「格差拡大は見かけだけか」内橋克人氏(評論家)による 2006年1月24日「ビジネス展望」(NHKラジオ第一放送,6:43分頃~)での発言

 アナウンサー 昨夜東京地検特捜部はライブドアの堀江社長ら4人を証券取引法違反の疑いで逮捕したわけですけれども、今日のテーマ「格差拡大」ということもこの問題と関係するところがありますか。

 内 橋 大いに関係があると思いますね。日本の若い人の中には、まだ堀江氏を尊敬しているとテレビのインタビューで答えている人がいますね。こういう見方に対して3点ばかり指摘しておきたいと思います。

 まずイギリスの『フィナンシャルタイムス』という経済紙がこういうことを言っています。「堀江氏は旧体制を破壊しようとして復讐を受けた」と。この解釈は間違いだと思います。彼が破壊しようとしたのは旧体制ではなく、むしろ旧体制と手を結んで「市場の健全な発展性」そのものを傷つけた。「実」の経済ではなくて、「虚」の経済の典型であったということが言えると思います。

 2番目に現政権、小泉政権の責任も大きいと思います。昨年の選挙の時に金融担当大臣が熱狂的な支援をしたわけですね。あるいは幹事長もそうですが。総理が「若者の模範である」というようなことまで言っていますがいったいどこを見ていたのか。当時から彼の商法には様々な問題点が指摘されていました。

 3番目に「アメリカでは何でも自由だ」と言っている人もいるが、そんなことはないわけで、例えば証券取引委員会は非常に厳しい規制をひいているわけですね。90年代には矢継ぎ早にレバリッジド・バイアウトという企業乗っ取りの方法を規制する法律を相次いで成立させています。

 政治というものはいったい「正当な労働の対価とは何か」ということを示すということでなければならないと思うのですけれど、逆にこういったマネーゲームを煽ってきた小泉政治、その陰がいま暴き出されたと言えるのではないかと思います。

  アナウンサー 内閣府は先週末の月例経済報告の閣僚会議で最近よく取り上げられる「所得格差拡大説」について「格差の拡大は数値の見かけ上の問題だ」と言う見解を明らかにしたわけですけれども。 

 内 橋 これもいま述べたことと大いに関係があるんですけれども、「『構造改革』が格差拡大を加速しているのではないか」という声が高まっているわけですが、それに反論させたわけですね。多分に政治的意図が感じられます。

 内閣府の見解というものはジニ係数を用いているんですね。ジニ係数というのは「全員の所得が同じ場合」には「ゼロ」、「一人が全ての所得を独占する状態」は「1」なんです。ですから数値が高いほど所得再配分が行われなくて、格差が大きいことを示すんですけれども、このジニ係数を使ってその中味を説明しているわけです。

 第一に「もともと所得格差の大きい高年齢層の世帯が増えた」からジニ係数が上がったんだ、つまり社会の高齢化に原因があるんだと言うんですね。二番目に「核家族化が進んだ」と。所得の少ない単身者世帯が増えたから、格差が出てきたんだと。さらに「人々の中流意識はほとんど変化していない」とこういうことを述べているわけです。

 これはもちろん、構造改革への批判に対して反論したものでありますけれど、昨日も国会におきまして小泉総理がこれとそっくり同じことを言っております。数値の上では格差拡大は証明されていないということを仰ってますが、これは呼応したもので、何か政治的な意図が感じられると思うわけです。

 アナウンサー こうしたことはどう受け止め、どう判断したらいいんでしょう。

 内 橋 当然ながら強い反論があるわけです。現実に生活者の実感から見ても、大きなクエスチョンマークがつくんではないでしょうか。 例えば日本政府による「ジニ係数」とは別に、経済協力開発機構(OECD)も「ジニ係数」の数値を発表していますが、そちらではそもそも計算の根拠として内閣府が言っているような核家族化の影響によって左右されないように、そうした影響分を除いて計算しているんです。

 こちらの方が実態に近いと言えると思いますが、そのOECD加盟国の平均は「0.309」なんですが、それに対して日本は「0.314」なんです。これは2004年発表の数字ですが、ジニ係数は日本においては相当に高い。格差の所在と拡大傾向を示しており、私たちの実感により近いと思います。

 公明党の神崎代表が「格差拡大は明らかだ」と内閣府を批判していますね。現場の状況をしっかり把握しないと、有効な政策を打てないと強調しておりますけれども、その通りだと思います。

 アナウンサー 会議の出席者から「直近の1~2年のデータがない」などの指摘もなされたようですが。 

 内 橋 そうなんですね。ここ数年とりわけ格差が激しくなっているんですけれども、その数値が無いわけです。マクロの数値だけをもてあそぶ傾向が強まっているということに危機感を持たざるを得ません。単なる「格差」というのではなくて、「格差拡大社会」とか、あるいは「人間の生存リスクに格差がある」ということを私などは早くから指摘してきたつもりですが。

 内閣府はもともと経済企画庁ですが、当時の『経済白書』が小泉政権以降『経済財政白書』に変わり、それまでの伝統ある客観性を放棄して、客観的な分析よりも「改革の成果」を強調する、政権のPRメディアになったという批判が経済学者やジャーナリズムから出ています。

 格差拡大は明らかでして、一例として『法人企業統計年報』をとりますと、一人あたり人件費ですね、これが資本金の規模別に大いに違います。例えば資本金10億円以上の大企業の人件費一人あたり740万円。これは97年から2003年までの間にわずか1パーセントしか下がっていない。 ところがそれに対して資本金1000万円以下の零細企業になりますと、一人あたり人件費わずかに270万円なんですね。それも同じ期間の間にマイナス15パーセントです。

 アナウンサー この開きは大きいですね。

 内 橋 そういうことですから、もともと給料の低い零細企業ほど長期不況の下で大きく賃金低下に見舞われている。こういう事実一つで、他にももっとたくさんのデータもありますが、こういうことを無視して「格差拡大は見かけだけだ」というのは納得しがたいと思うわけです。

 アナウンサー 新しい貧困層ということが言われる一方で、新富裕層と言われる高額所得層も増えているようなんですが、どうなんでしょう。

 内 橋 いまや富裕層向けの様々な銀行の商法が花盛りと言われてますね。「世界の億万長者の6人に一人が日本人」だというのも現実です。一方「働く貧困層」が増えているのも現実で、絶対数も増えています。  

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