11月7日投票の米中間選挙の投票まで、あとひと月ほどとなった。今年前半からイラク情勢の悪化、ガソリン価格の上昇などによるブッシュ大統領の支持率低下により、ひょっとすると民主党が上下両院で1994年以来の過半数奪回に迫るのではと言われてきたが「両院とも接戦、予断を許さない」というのが現状のようだ。
上院について言えば、共和党が現有議席で民主党を10議席リードしているため、民主党が過半数をとるためには「ネットで6議席増」が必要だ(民主党議席が増えた分、共和党議席は減る)。
例えば、NHK・BS1が2006年10月2日に放送した米ABCの『ジスウィーク』は、共和党が「危ない」と見られているのはロードアイランド、ペンシルバニア、オハイオ、ミズーリ、モンタナ、バージニア、テネシーの7州、民主党が「危ない」と見られているのはニュージャージー、メリーランドの2州であるとしている。
民主党ピンチの2州のうち、ニュージャージーの現職メネンデス議員(民主)は共和党新人に金銭スキャンダルを突きつけられていて、情勢は「民主党にいちばん有利な数字でも五分五分」らしい。民主党側は「共和党の情報ソースは犯罪集団」と反撃しているものの、先週までに放送されたインタビューの映像を見てもメネンデス議員にあまり勢いは感じられなかった。
メリーランドが健闘している共和党のマイケル・スティール候補の追い上げを振り切ったとしても、ニュージャージーを失うと、民主党は先に挙げた共和党から議席を奪う可能性のある7つの選挙区全部で、勝利を収めなければならない。
リベラル色の強いロードアイランドの共和党予備選では、しばしばブッシュ大統領の法案などに反対票を投じてきた穏健派のチェーフィー司法委員長が、新人保守派市長の挑戦を退けた。共和党指導部やアメリカの飯島前秘書官のローブ氏は、イラク戦争への反対にも目をつぶり、民主党に勝つ可能性のある現職を守った。
もっとも、民主党がここまで漕ぎ着けたのはかなり上出来なようである。例えば、昨年の段階では100パーセント再選確実で、2008年の大統領候補の呼び声もあったバージニアの共和党人気上院議員ジョージ・アレン氏(1期、前知事)は、ある民主党陣営のインド系ボランティアの髪型について、猿を意味する「マカカ」という差別用語を用いたのがケチのつき始めで、母親がユダヤ系ということが明らかになった際にも、民族の誇りについて語るのではなく、民族習慣の薄い家庭であることを強調して支持を減らしている。
バージニアの民主党候補は、レーガン政権の海軍長官を務めた元共和党員のジム・ウェッブ候補で、有名な劇作家ではあるけれども政治家としては全くの新人だったため、この僅差の追い上げは予想外だったそうだ。
さらに、夏前までは「もしここがとれれば民主党が上院多数を制するだろう」と高望みのように言われていたテネシー州、ここでは1992年にアル・ゴア氏が副大統領に転じて以来民主党が上院の議席に手が届かなかったわけだが、共和党のフリスト上院院内総務の引退を受けての選挙戦で民主党の黒人穏健派下院議員、ハロルド・フォード・ジュニア氏がチャタヌーガ市長の共和党候補ボブ・コーカー氏と完全に肩を並べている。
建設業出身で圧倒的な資金力を誇るコーカー氏に対し、フォード下院議員はカリスマ性、政治家としての幅の広さを示して善戦しているそうで、民主党の全国指導部も全力を挙げているようだ。
以前、このブログで小泉首相のプレスリー邸訪問は、上院共和党の天下分け目の選挙区テコ入れの片棒担ぎと指摘したが、現在のところ情勢分析は的中していたことになる。
もし、上院で民主党が過半数を奪還すれば、クリントン政権の北朝鮮とのKEDO推進による関係正常化路線、全面核実験禁止条約批准、京都議定書批准などをことごとく阻んできた「共和党多数の上院」という、アメリカの国際協調路線の障害が取り除かれることになる。
それは表現が少し強いかもしれないが、アメリカの政策、ひいては国際政治潮流に大きな変化をもたらす可能性があるので、大いに注目する必要がある。
安倍政権も、ブッシュ大統領のホワイトハウス、あるいはネオコンとの結びつきの強さを誇っているようなところがあるが、情勢判断に誤りがないようにしてもらわなければならない。
なお、今日付の『朝日新聞』も書いているが、今週にかけての大きな話題はボブ・ウッドワード氏の新著と、辞任したマイケル・フォーリー下院議員が議会アルバイト少年にわいせつなメールを送っていた問題、さらにその問題に下院共和党指導部が適切に対処していなかったことに対してハスタート下院議長に辞任要求が出ていることだ。
ウッドワード氏の新著は、テロとの戦いやイラク戦争についてのブッシュ政権の対応が正しかったかという点に再び焦点を当てるものだが、選挙への影響については「スミス都へ行く」よりずっと以前からの伝統ある議会アルバイト少年に関わるスキャンダルの方がずっと大きい。
なぜなら「倫理問題」こそ、ここのところ大統領選、議会選で連勝を重ねてきた共和党を支持する草の根保守派を動員する最大のテーマであるにもかかわらず、ただてさえ移民問題などで「ブッシュ政権は十分に保守的ではない」と不満を募らせてきた保守派が、共和党下院議員が議会アルバイトの少年に対しセックススキャンダルを起こし、議会指導部もしっかりと対応してこなかった現実を見れば、投票所に足を運ぶ意欲が起こらなかったとしても不思議ではないからだ。
多くの共和党候補が「ブッシュ離れ」「ハスタート離れ」を演出しているようだが、この問題が波紋を広げれば、一時期「上院より難しいかも」と言われた下院の逆転が有望になってくる。
「予断を許さない」。このことは変わらない。注視するとともに、潮流変化を見落とさないようにしたい。